羽村の多摩川沿いの伝統的な街並みを全部碁盤目に変える、乱暴すぎる道路事業の話、後編です。
羽村(前編):玉川兄弟と中里介山の地で。 - ニシオギDRUNKerシンブン
ざっくりいうと、これ(享保年間の古地図:羽村市郷土博物館)から
こうなった(駅前の案内図を天地逆にしてみた。下側が西口。上の街並みと比較してみてほしい)街を
こうする。羽村大橋に向けての40m道路(そんなに交通量ないのに…)まで作り、区域の3割を道路にする計画 !
羽村駅西口土地区画整理事業 | 羽村市公式サイト
そりゃあムチャだろう、ということで、この件は2002年から行政訴訟裁判になっています。なんと22年目の闘いです。
2024.5.15東京地裁での羽村の区画整理行政訴訟裁判(第22回口頭弁論)に行ってきました。
裁判とはいえ、両方の弁護士の間での書面で弁論は進んでいて、裁判所ではその確認だけで5分もせずに終わりました。「異議あり!」みたいのはないのね(書面内容には異議があるのだろうけど)。
ちょっとおもしろかったのは、住民側の弁護士(阿佐ヶ谷で講演会に呼んだ山本志都弁護士たち3名)はカジュアルで男性もノーネクタイ、髭、だったりするのに、行政側3名はスーツびっちり(環境破壊、樹木伐採する側の人って、たいていSDGsバッヂをつけてるよね)、であったこの対照。
しかし裁判自体を見てもそのくらいのことしかわからないので、原告団の事後報告会に参加させていただきました。
それでも難しい裁判なので、どこまで書けるか。詳細は原告団のHPを見てください。この記事も原告の方から多くのアドバイスをいただいています。
羽村駅西口区画整理反対の会ホームページ - hamuraのJimdoページ
まず、何がややこしいか、というと、この「羽村駅西口区画整理事業」が、裁判所の差し戻しや、途中で行政側の変更を経て長期間に渡っており、裁判の枠組みとしては、現在は5回目になる。
① 2002(H14)11/13東京地裁「区画整理に関する公金支出差止請求」(原告129名)
→2003(H15)12/4東京地裁「具体的支出の特定がない」却下→2003(H15)12/18 東京高裁に控訴(85名)
→2004(H16)7/20 東京高裁・棄却
→2004(H16)8/2 最高裁に上告(83名)
→2006(H18)4/4第3小法廷に口頭弁論→2006(H18)4/25 事業計画決定前の監査請求は適法・地裁に差し戻し
②2006(H18)10/13 東京地裁「駅前14棟移転補償の差し止め」(235名) ①に参加訴訟となり、原告242名となる。 →2008(H20)10/14地裁「訴えの利益が消滅」差し戻し審却下
→2006(H18) 10/27 東京高裁に控訴(220名)→2009(H21) 11/25 東京高裁・差し戻し審の控訴を却下
→2009(H21) 12/8差し戻し審・最高裁に上告(212名)
→2010(H22) 最高裁 2002(H14)の「公金差し止め請求」差し戻し審を却下
【2002(H14)の提訴から2010(H22)の結審、判決まで9年】
③2006(H18)2/17 東京地裁「土地権利者の会補助金差し止め返還裁判」(原告9名) →2007(H19)10/19地裁「補助金は違法とは言えず」棄却
→2007(H19)10/31 東京高裁に控訴→2009(H21)1/14 東京高裁・却下
→2009(H21)1/27 最高裁へ上告→2010(H22)6/22 最高裁 上告受理せず
【2006年の提訴から2010年の最高裁まで4年】
④2015(H27)6/8 東京地裁「第2回事業計画変更取り消し提訴」(原告121名)
→ 2019(H31)2/22「事業計画は違法・取り消し」判決(住民側勝訴)
(詳細はこちら)
2024.04.13山本 志都弁護士講演会「行政訴訟・土地区画整理裁判を考える」 - 阿佐ヶ谷駅北口・杉一小改築問題情報
→2019(H31)3/6 羽村市、判決不服として東京高裁へ控訴。5/20事業計画を変更。
→2022(R4)8/8 高裁は、住民側の勝訴を覆す判決。11/4 権利者45名で、最高裁へ上告。
→2023年(R5)3/最高裁「棄却」の判決
【2015(H27)年の提訴から2023(R5)年の最高裁判決まで8年】
⑤2019(H31)11/13 東京地裁へ「第3回事業計画変更(期間15年間延長)取り消し」求め提訴(63名):現在の裁判
→次回7/10第23回口頭弁論(地裁)
とにかく、事業の不当性(予算や工期なども)を住民が訴え、行政がのらくら反論しながら、事業を止めようとしない22年間です。
今回のやり取り(書面で)は
24/3/13裁判所→行政側へ:集団移転が進んでおらず、住民の反対があり、工期に影響がある。
24/4/26市の回答:区画整理法77条で直接施工(強制執行※)できる。集団移転の範囲は柔軟に設定。事業期間の変更はありうる。
と、回答したというもの。
※今年の東京都のニュースですが
・都建設局用地部に、知事のトップダウンで「機動取得推進課」を60人余規模で設置。予算440億円(1月26日)
・都建設局は、「土地収用制度適用基準」の運用を改定したことを認めた。「任意折衝による円満解決を原則とする」との文言を削除し、事業開始5年の期限を過ぎるなど条件を満たした際、都が「事業の早期完成のため緊急を要する場合や事業効果の早期発現に支障がある」と判断すれば「土地収用法に定める手続きを進める」とした(6月4日)。
官製地上げ…
住民側は、一環して事業計画自体の実現不可能性を追及しているため、市の財政圧迫するほどの予算と工期の設定がおかしい、と主張しています。
2019年の画期的な住民側の勝訴判決は「市の財政と事業期間に問題がある」ことを認めたものですが、そのあと市は第3回事業計画変更を行い、なんと判決の出た内容を無効にしてしまった(事実がなくなった)。そんな荒技あり?と思いましたが…
さらに、都と国から100億円補助・交付増額で市の財政負担という論拠も弱められてしまった。とはいえ、小さな市にとっては膨大な予算を使う計画であり、当然、工期も延びるのは当たり前。
総事業費436億円、うち、市の負担が220億円(120億円は市債)。工事費のほとんどは補償と用地取得。市は区画整理=換地で進めたいが、5億4000万円の予算がすでに50億円に。
工期に関しても、2019年第3回変更の予定工期はあと6年。450棟のうち191棟の移転を予定しているが、達成率はまだ37%(換地設計は2013(H25)年)。
住民側の方針として話されていた対案は、すでに用地取得されたところには道路を作り、これ以上地域の破壊を防ぐこと。
(牛坂通りから羽村大橋にくだるところ。奥にみえるオレンジのネットは用地取得された場所。ここだけの拡幅は可能だが、区画整理が済んでいないからと手をつけない)
(公園に見えるが、道路用地。こうした「空き地」が増えていく)
これらは裁判だけではなく(裁判での主張も含めて)市に要求していこうというところ。
・全戸移転(街区)しないで沿道整備事業に移行させる。
・羽村大橋から新奥多摩街道までは用地取得できている(18m都道)。
・区画整理を縮小した飯能の事例を手がけたコンサル等に替えて市長に調査依頼をさせる。
そもそも、現・橋本市長は事業の検証を公約して、2021年に当選(来年4月改選)。
しかし現在は、対象地域を縮小したり、区画整理以外の方法も検討しようという意志はあるが、事業計画の換地変更(市長権限で変更はできるはず)が必要なので従前の計画で進めてしまっている状態。
これ、杉並区とそっくりですね。
「反対の多い事業(杉並区の場合は道路だけでなく複数)は見直す」として区長になった岸本聡子区長が、「すでに事業認可されている」「一部着工している」など「決まったことは変えられない」という意識になってしまって、本来は首長権限で変えられる、止められることも変更しようとしない。
羽村の場合は、進めたいのは「公益財団法人・東京都都市づくり公社」(元・東京都副知事が理事長。東京都の天下りは三井不動産だけではない! )。市職員はその言い分をそのままに「変更はできない、難しい」を繰り返し、「ここまで進んでいるので、細かい換地なので後戻りできない」と言い張っているそうです(だから換地にしなければいいのに…)。
住民側からは、都からの交付金がすでに出ていることについても、「道路ができないと返還しなくてはいけないのか?」ではなく、現在用地取得されたところに道路を作って、実績とすることができるのではないか、との対案。
これ、かなり現実的な話に思えるのだけど、それを聞かずにどうして街を壊してまで全部の道路をやろうとするのだろう。
杉並区の補助132号線などのケースでも、用地取得での沿道整備事業をするだけでも、地権者住民を追い出すことになって、当然反対されるわけです。
さらに、羽村のこのケースは「換地」による「玉突き移転」となる「土地区画整理事業」のやり方を、道路事業のために導入しているのがおかしい。おかしい、というか、それで余計に事業が進みにくくしているように思えるのだけど。
杉並区でいえば、阿佐ヶ谷のケースで、換地という手法を取ることで、むしろ土地の価値評価が不透明になってしまったり、河北病院の工事が遅れていることで、全体の予算が膨れ上がること、など、似たところがあるのではないでしょうか。
ましてや、1000軒もの住宅地であるから、住民それぞれの権利侵害問題は深刻で、この日、問題点として説明していただいたことは「延々と玉突き※で、道路と関係のないところまで換地設計に入っている」「権利者の知らないうちに決められた」「個人情報とされて非開示。決定過程、減歩・清算金(横の照応)がわからない」ということ。不公平で不透明。
行政は再度の変更はあり得るというが、それだって「第3回からさらに変更すると住民の権利を不安定にする」ことになるばかり。
いいところに移る人と悪くなる人が生じ、保留地を取得して売る人が得をしたりして、地域の分断が起きてしまう。
※換地事業による玉突き移転 : 事業区域は既成市街地の住宅街の為、道路用地にAさんが住んでいる(換地先に移転)→立ち退きに対して別の土地を補填する(換地)→その土地にはBさん宅(道路用地ではない)がある→Bさんの換地先にはCさんが…となる。
さらに道路用地でない家は事業完了後に元の場所に戻るケースもあり、そのためには各家に仮住まいが必要となる。区画整理では、道路用地に該当するかどうかは関係なく、ほとんど全ての家屋、約1000軒が土地を減らされたりして(土地の小さい人はその分清算金を徴収される)碁盤の目の街区に詰め込まれるため移転する。
なんか、書いていて「嘘だろう?」と思えてきますが、ほんとにこんな無茶な計画。住み慣れた家を引っ越すって、大ごとですよ。事業をやるにしても、もっとも影響の少ない範囲にすべきでは(住民のためだけでなく、行政にしたってその方が事業が円滑に進むはず)?
行政としては、買い取りにしてしまうと、住民が違うところ(市外)に転出してしまうから人口減少につながる、とか、換地の方が経費が少ないとかの目論見のようですが…。そりゃ住まいを追い出して道路にするような市に住み続けたいか?という話だし、経費だって玉突き換地で時間もかかるため、仮住まいの賃料も累積して、補償金は1軒あたりが2800万円から4000万円に上がっているそうです。
そういう「事業の不当性」を訴える裁判なのですが、規模や事業内容は違っても、東京各地で、行政が明らかに住民の利益にならない事業を、疑問に思えるような予算投入で進めようとしている事例が数多くあり。
羽村市のケースでは、裁判で一度はよい判決が出たり、市長が替わったりしたのに、まだ止まらないので、きわめて困難な問題ではあります。けれど、どこかで止めないと、今後、どこでもきちんとした街づくりができなくなってしまう。
羽村も含め、これからも各地の事例に注目したいと思います。