
葛飾区・立石の南北駅前、低層の庶民的な商店街から超高層タワマン3棟(+13Fの区役所)へと街の形が180°変わる巨大再開発。 再開発そのものはなかなか裁判で争うことが難しいのですが(それもおかしな話ですが)、現在葛飾区民のみなさんが葛飾区役所の移転→再開発ビルに入ることを争点とした住民訴訟を起こしています。
前編はこちら↓
https://nishiogidrunker.hateblo.jp/entry/2025/01/17/095938
前記事の概要
被告:葛飾区長青木克徳
訴訟の目的:「(葛飾区が)不当に高額に設定された権利床が記載された組合の権利変換計画に同意し、これを漫然と撤回しないまま、権利変換計画の認可を東京都知事に受けさせ、権利変換処分がなされたことの違法性を争う(訴状より)」
損害額:7億1610万2775円
経緯:2024年2月監査請求、3月に却下、不当な決定から一ヶ月以内に訴訟する必要があり、4.11に訴訟。
北口再開発地区には葛飾区の文化センターが含まれており、この土地を権利変換する再開発ビルの東棟3F(13F建て)権利床と、 4Fから13Fの保留床(購入)に区役所移転。価格の基準になるのは3Fの権利床なので、「権利床を不当に高く交換」すると、権利変換で獲得できる面積(3F)を損するだけでなく、「保留床(4-13F)も不当に高く買う」ことになる。
東棟3Fの区の権利床の計算は98万円/㎡。原告が根拠にしているのは、東棟2Fの民間権利床(商用)が45万円/㎡であること。同じ算定なら葛飾区も倍の2フロアもらえるはず。 この差額に面積を掛けた損害額が7億1610万2275円の訴訟額であり、計画に同意し、管理を怠ったことが葛飾区の財産を目減りさせたため「葛飾区長は公庫に返すべき」と申し立てている。
もちろん、区民の財産を不当に投げ出すような区役所移転は問題です。一般に、住民訴訟はそうした税金支出について争われます。
しかし本質的な問題はそれでしょうか?葛飾の、立石の住民として大切なものは、立石の街そのものです。100m以上の高層ビル3本(南口の事業計画含め)が乱立し、街を壊すことはどうすれば止められるのでしょう?
後編は原告団と弁護団のそうした想いが伝わる報告会・質疑応答のレポートです。
2024.11.29の第二回報告会は、主任の加藤芳文弁護士の、熱いスピーチから始まりました。
「私は忠臣蔵が好きなのだが、泉岳寺駅はすっかり変わった。見たくない感じ。150mのビル(鹿島、東急)、高輪ゲートウェイから品川まで高層ビルを並べている。墨田区では隅田公園の東武電鉄への民間委託の動きがある。神宮外苑の伐採も始まった。
みんな同じやり方で再開発。 この裁判はそんなことでいいのかと問うていく。大きな再開発を止めていく闘いのひとつ」
…討ち入りだ!
舩尾遼弁護士からも「ほんとならこの再開発全部を争いたい」が、裁判の争点としては、床を高い値段で税金で買っていいのか、というところである、と表明がありました。
「この再開発全部」の仕組みとは
・H19(2007)から準備組合(どういう事業をするのか都市計画を作り、地主たちの合意を得るもの)発足。その前から地主が学習会、葛飾区が指導。
・飲み屋街は地主が少なく、店の面積が小さいため、テナント収入にならない(地主は手放したい)。
・地主の中でも「街に合った再開発ではない」として同意しなかった人もいた。
・まちづくり、区画整理、個別に補償していくとお金がかかるが、一般的にはデベロッパーが取りまとめる。その時、高い建物にしないで街を作り直そうとすると、都内ではお金がかかる。そこで、住民には低層階に入ってもらい、上の階を売る。儲けるため、床を売るための高層ビル建設が現在の再開発だ。
柏木優孝弁護士からは法的な解説として
・住民訴訟(地方自治法)は財政行政の適正な運営のため。財産に関してでないと対象にならない。
・公金の支出、財産の取得管理処分、財産の管理を怠る事実、契約(不動産売買など)の締結など。
・今回は不動産売買(金銭=財産にあたる)ではなく権利変換(金銭ではない=財産か?)。もともと持っていた土地がなくなり、新しく床を貰うことが財産取得処分に当たるのか?が争点となる。
・手続き面では区長が一度も議会にかけていない。そこが違法にあたるのでは。
・再開発法を悪用、区は何もしないで組合がやっているていで監査せずに進む。区が皆の財産を守るために動かず、業者を儲けさせる手段としてやっている。
裁判の方向性については、前回の第一回公判報告会(2024.8.20)でも、「裁判の対象になる財産取得とは」「議会との関係」「裁判官の反応」などが語られていました。
・葛飾区は「住民訴訟にはならない。今回のような再開発は再開発法に則っている」としている。
・財産取得には議会承認が必要。区長が勝手に締結しては、区の財産が減ってしまう。議会が歯止めをかけるのが法律の趣旨。
・資金計画はコロナや物価高がありながら3年間見直していないのはおかしい。葛飾区は権利変換の規定ではない、変更認可があるので3年間ではない、と主張。事業計画とは何か?をリサーチして再反論しようと思う。
住民訴訟の対象になる。白藤名誉教授(専修大学):権利変換は住民訴訟対象という論文を書いている。
※権利変換は「財産に当たらない」とした高裁判例はあるが、最高裁まで行っていないので、絶対ではない。区画整理だと「換地は財産処分ではない」の最高裁判例あり。
こうした行政訴訟が原告住民に不利なのは百も承知。しかし一つ一つ、理を尽くして変えていく必要があります。弁護団からはそんな「熱血!」ともいえる気概が感じられました。
今回の裁判官については
・カマノ裁判長:原告の話を聞いてない!民事38部、行政訴訟をいっぱいやっている。イヤな顔。態度悪い。「よろしくお願いします」にも目を合わせない。早く終わらせたい様子。一度区が決めたことに区民が異議、行政がやったことなので判断したくない。
・行政訴訟は裁判長次第でいきなり結審する。傍聴に来て監視してほしい。
と、たいへんな言いようでしたが
・判決を書く左右陪席は「街が壊されてしまう」という原告陳述をまともに聞いていたのでは。
・権利床の値段がこんなに高いことについて、区の「内装費用が入る」という答弁では不透明なままブラックボックスに入ってしまう。裁判所は行政の決めたそこまで立ち入りたくないのが本音。本来は議会で議論すべきこと。
質疑応答では、区民からは裁判用語としての原告の要求がわかりにくい、という率直な質問も出ていました。
・葛飾区は事業者だけで作った計画にあとから同意したわけではない。「漫然と放置した」というより、もっと積極的に関わっている。
・葛飾区は善意の一組合員として受け身で同意し、引きずられたのか?実際はもっとも有力な組合員で、計画を作る段階で常に発言権がある。葛飾区が言ったから、こういう計画になった。民間事業といいながら実際は官製事業で葛飾区の言いなりにしている。そこを立証しないといけないのでは
弁護士の回答は
「我々も訴状ではそのことを書いている。葛飾区の呼びかけで勉強会がはじまり、専門家に頼む費用も区が出している。有力な影響力を持っている。区がNOと言えばNOとなる。
「管理を怠る」「漫然と放置」は法的には重大過失を意味する用語だが、一般にはあまり重大だという風に聞こえないのだろうか。一般に広めるには違う言い方が必要か。葛飾区が自らの財産の管理について無責任であるということは言っていきたい」
議会での現状については、共産党の中村区議から予算高騰についての議論の報告がありました(第一回、第二回)
・現在北口で行われているのは既存建物の解体工事。90%の建物からアスベストが検出された。鉄道(京成電鉄)に隣接する工事は1cmのズレも許されないので、土留め工事追加。掘り返したら地下30mの杭のある鉄筋コンクリート2棟が判明。
・これらで建設費が跳ね上がった。第3回定例会では、再開発の合計が930億円→1185億円区庁舎は246億円→376億円(1.6倍)で、いったんは賛成した議員からも異議が出た。全員協議会を急遽10月8日に開催。
・なぜ増えたか?最終的にはいくらか?いつ頃わかるのか?完成予定は2030年となっているが、現実的か?
・江戸川区役所移転は工期延長と資材高騰で290億円が590億円に(続行)、北とぴあ(見直し)、サンプラザ(いったん取り下げ)も費用が2倍。負担を区役所の工事にかぶせるのではないか。税金投入の予想がつかない。
・新しいビルに入る人の生活再建があるので再開発そのものを否定はできない。しかし上階のタワマンと区役所が東棟3-13階に入るため、10%以上の建物の変更となる。都市計画決定変更が必要で、組合員全体の合意が要る。区役所は現状で直せば使える。区役所移転の計画そのものを見直し、工事の費用を下げるのが現実的。
・庁舎の建て替えは地方自治の考えからは国は補助金を出さない。葛飾区は再開発の補助金をアテにしている。地方自治から逸脱したモラルハザード。保留床を買うことは税金の二重払い。
葛飾区の「モラルハザード」としては、この件を含めて現在4件の訴訟があるそうです。1件は立石のエリアマネジメントが恣意的に選ばれたことなので、この問題とも密接に関係があります。あとは報道でも取り上げられていた保育園への補助金誤支給について、区長が返還請求しなかったこと、など。この3件を闘っているのが、前回の区長選で青木区長に挑んだ梅田前区議。この方からは(第一回)、議会と住民、両方の立場を踏まえた意見が出されました。
「住民監査、住民訴訟は勝つことも大事だが、区民が黙ってないことを示す、提起することが大切。この訴えがなければ区民にとってもっとひどい計画になるのではないか。訴訟は、葛飾区が慎重にならざるを得ないようにできる。
再開発事業そのものは民間の認可事業なので止めるのは難しい。事業計画、保留床の価格230億円が大幅に見直される。それに基づいて条例改正。保留床が330億円になったらそれでもやるのか?保留床を買うには議決が必要。買えなかったら再開発事業は止まる。
今どき立石駅前で30,000㎡を買うのは葛飾区しかない。議会が高すぎる、と判断したら、買えない。再開発組合から訴えられるかもしれないが、46万区民の財政を考えたら、どっかで踏ん切らないといけない」
そんな葛飾区は、2025年11~12月に区長・区議選挙が控えています。区長を変えることはもちろん、議会がやろうと思えばできることは大きいため、第二回報告会では「選挙に向けて」という声も上がりました。しかしその時です!
「選挙は大事だが、住民訴訟、監査請求は一人からでもできる区民の自発的な行動。政治家に変えてもらうのではなく、区民の行動の結果、政治を変える。これは選挙よりも重い。多くの区民がこの問題を知って、一人一人が行動の主体となる活動を」
という声が上がりました。
たしかに、住民運動は選挙が近づくとそこに力点を置きがちです。しかしそのことで、住民が自ら立ち上がったことが後景に押しやられてしまうことも。変えるのは政治家、であっては青木区長と同じことになります。運動する人たちが、こうした意識をしっかり持っていることは、とても重要だと思いました。
また、こうした声も上がりました。
「この問題の根本は葛飾愛、我々の税金を大事に使ってほしい。立石はあんな壁に囲まれてデカいビルでいいのか。裁判の話だけでなく、そこまで取り込んでほしい」
おそらく、これが一番の核心でしょう。その手段としての住民訴訟。注目し、応援していきましょう。
