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石神井公園裁判、高裁敗訴

石神井公園南口駅前再開発(1区画まるごと潰して26階103mと9階建てのビルに)による立ち退きと景観悪化を訴える住民訴訟が2025年1月22日、控訴棄却で結審しました。
一審では工事の執行停止が出て、地権者の権利への配慮が見られたものの、直後に高裁が取り消し。2024年7月に敗訴。それ以降の控訴審でも、着々と解体工事が進む中、住民と弁護士は法廷で闘い続けてきました。
2025年2月18日、ちょうどその再開発地区を発端とする道路補助232号線に面する練馬区役所石神井庁舎会議室(練馬区は役所内に区民施設がある)にて、裁判の報告会が行われました。

 

景観条例について:
2012年、北口にタワマン・ピアレス(三井不動産)ができ、南口にもプラウド(野村不動産)が計画された。このままじゃ石神井公園がタワマンだらけになるという危惧から、住民が主体となり、区と丁寧に擦り合わせて、石神井公園からのスカイラインを守る高さ制限(35m/公開空地ボーナスで50m)の条例を作った。
しかし8年後に、練馬区は住民合意なく新しい地区計画を決定した。

 

裁判について:
2020年の第1次裁判は中身の審査のないままはねられた。
2022年からの第2次では、1.都市計画変更、高さ制限の緩和、2.景観計画の高さ基準との整合性、について争った。24年一審敗訴。
今回控訴審で棄却となり、最高裁に上告するのは難しい。最高裁に出せるのは以下。
抗告:最高裁の判断を仰ぐ
許可抗告:高裁が自分で判断
特別抗告:憲法違反など

 

尾谷弁護士から、控訴審判決第2次までの流れの解説。

第1次訴訟:
2020.12.17最初の訴訟提起
・市街地再開発計画と地区計画変更決定が出たのを受け、計画の撤回と再開発組合設立認可の差し止め:再開発組合設立を中心的に議論
市街地再開発:練馬区都市計画決定→東京都・組合設立認可処分→組合が権利変換計画
地裁の見解:組合が設立されても、その後に救済処分(取り消し訴訟→執行停止可能)が取れるから、今設立差し止めをしなくてもよい。
・裁判官交代後に、内容を審査せず、「訴訟要件」で終結させられた。

 

行政訴訟は2カ月に一回しか進まない。行政の見解を公式に出すため、反論文書の内部手続きが必要だから→その間も処分(この場合は用地取得や解体工事)が止まらない。結果、事情判決になってしまう。

 

第2次訴訟:
2022年8月、再開発組合設立認可取り消し申し立て
画期的な判断!!・1ヶ月後、東京地裁が工事の執行停止の認容決定。地区計画は地域に密着し、関係権力者の合意が必要であると判断。地裁は長年審議して事案を理解していた。
しかし、2024.7.29東京地裁で判決:原告敗訴
2026.1.22東京高裁で判決:請求棄却

 

判決文には、練馬区の地区計画変更について、地区計画には第一種市街地再開発計画をしないことにしたとする文言がない、として、練馬区が再開発を進めることの正当性が書かれている。
原告は「変更前地区計画は地域住民が長年にわたって主体的に議論を続けた結果として決定された継続性・安定性の要請が高い地区計画であると主張」
しているにも関わらず、練馬区の変更は合理的で民主的手続きを取ったもの、とされた。
「土地の高度利用(再開発)には経済合理性の観点だけでなく、防災や交通、生命身体の安全に関わる課題解消も含まれる。区は積極的推進が求められている」
「区は地区計画変更について平成27年ごろから5年のあいだ6回のまちづくり懇談会、3回の説明会を開いた。都市計画審議会の議を経た。これらで100m級の高層建築物が審議された」
従って
「民主的な手続きを経た上で地区計画を変更した」
ことになる。

 

都市計画:
用途地域ではメッシュが荒い。もっと狭い、権利者が見える範囲で話し合って決めるのが、地区計画制度。地区計画は細かくメッシュをかけ、100%の合意が必要。
変更前:街並み誘導型地区計画(10年近く話し合って作った)→変更するときに話し合いと合意が必要。

練馬区は変更の必要性を説明していない。なぜ地区計画変更するのか?なぜ100mにしたのか?「防災の観点から共同化(再開発)した方が早い」という説明も、練馬区は地裁の最後に出してきただけ。
民主的手続きとは?何のための都市計画なのか?
東京地裁の裁判官3人もそれを疑問に思ったから執行停止した。しかしそこで、これまでの経過を見ていない裁判官に交代した。
練馬区は「説明会を開催した、条例を変えた、議会にかけたから民主的手続き」だと言う。
第一種市街地再開発事業は反対してる人の権利を無理やり奪うものだ。本当に熟議をしたのか?反対している人に寄りそったか?

 

質疑

Q:防災対策=高層化に思想が固まっているのでは。
A:裁判所は生命身体の安全を守る原則で、行政が「危険だ」というと追認する。行政は錦の御旗のようにして、やりたい放題やる。第一種市街地再開発で共同化すればよいというものではない。


Q:他の高さと比較して100mだけ採算性が採れるという試算は適当か?
A:定量的に示せと要求したが、シミュレーション結果を出さない。数字が一人歩きすると言って。裁判所は行政の言ってることをただ追認している。
A:シミュレーションは景観条例に基づく事前審査の時に景観部会に出したのに、事業者の営業秘密であるとして最後まで出さなかった。違う高さでは採算が採れないのか?練馬区は最後まで資料を出さず、不透明に終わった。

 

Q:一審判決の前の裁判官交代は偶然なのか?何か要因があるのか?上告はしないのか?
A:裁判官は公務員なので3年に一回くらい転勤するので、恣意的ではなく偶然。上告事由は非常に制限されている。判例違反、憲法違反。法令違反は最高裁が判断するかどうか裁量的に受理する。それ以外は「単なる法令違反」として三下り半判決になる。

 

最後に弁護団がコメント。福田弁護士は、どうしても言いたいことがある、と、こうした再開発裁判の問題点を怒りをこめて語りました。

判決が出る前に現実(再開発事業)が先を行ってしまう。建物を撤去して、更地にするプロセスが始まったら取り返しがつかない。裁判に勝ちたくてやってるのではなく、街を守りたくてやっている。勝ったとしても壊されてしまってたら意味がない。
判決が意味のないものになり、取り返しがつかなくならないよう、当事者に救済が与えられるように執行停止処分がある。
更地にしたら元に戻すことができないので、とにかく一度(5ヶ月)止めてくれ、という執行停止が一審で出たことは画期的。執行停止が再開発に出たのは初めてのケースだった。
しかしそれを5月9日に東京高裁が取り消した。言ってることは二重にも三重にもおかしい。執行停止を申し立てている原告が家(事業所)を失うことは「重大な損失ではない」とした。
(仮に違法だったときに)裁判を意味あるものにするための執行停止だったのに、現実を先に進めてよい、と言った。それでは結論として練馬区の決定が違法だったら争う方法、街を守る方法がない。仮に違法となったとしても「事情判決」といって、すでに進めている事業を取り消すのは「公益に反する」とされる。
裁判官はおそらく執行停止の段階では原告勝訴判決を書くつもりだったのに、高裁に執行停止を取り消された。それは何かシステムがおかしい。
ここまで追い詰めたのは原告と地域の皆さんの闘いの成果。裁判は一区切りだが、街をどういう風によくしていけばいいのか、進めてほしい。
ただ敗訴しただけではなく、この裁判から得たものは何か、どう使っていくのか考えるべきだ」

 

原告地権者からも

「やってよかった。石神井公園の街を愛して、心配していただくみなさまから、真実に向かっていく強さ、優しさを貰った。これからの問題にも向き合っていかないといけない石神井庁舎やライオンズマンションの建て替え、まさにこの再開発地区を起点とする道路・補助232号線が地域を分断し、商店街が全て裏通りになってしまう。その先には大泉二中の分断問題もある」

 

石神井公園についてのこれまでの記事はこちら。

残念な結果でしたが、原告・支援者・弁護士のみなさん、おつかれさまでした。少しでも状況がいい方向に好転して、石神井公園の街並みが守られることを願います。

nishiogidrunker.hateblo.jp